はじめに
B2Bマーケティング、特にB2B製造業におけるマーケティングは、近年急速に注目を集めています。しかし、その浸透度合いは企業によって大きく異なり、先進的な取り組みを行う企業とそうでない企業の差が拡大しています。
B2B製造業の多様性
一言でB2Bマーケティングといっても、業界・業種、その企業のプロダクト、そしてその価値を届ける顧客の組み合わせだけマーケティングは存在するはずです。
- 「B2B製造業」と一言でいいましても、
- 素材・材料業界
- 機械・産業機器業界
- 電子・電気業界
- 自動車・輸送用機器業界
- 食品製造業
- 建築資材・材料業界
- 医療機器業界
- インテリア・家具業界
というように多くの業界があります。しかしながら、製造業全般でマーケティング、特にデジタルを活用したマーケティングにおいては浸透が遅れているのも事実です。

B2B製造業は、長年の取引関係や既存顧客との強い結びつきが重視されています。そのため、マーケティング戦略でもあるABM(Account Based Marketing)はB2B製造業においては従来から実践しているものと言えます。
とはいえ、新規顧客開拓やマーケティングの重要性が急速に認識されつつあります。
マーケティング浸透の遅れ
B2B製造業になぜマーケティングが浸透していないのか
B2B製造業にマーケティングが浸透していない理由は、以下のような業界特有の要因が挙げられます。
伝統的な営業手法への依存
B2B製造業では、「良い製品を作れば顧客がついてくる」という考え方が根強く、既存顧客との長期的な取引関係に依存してきた歴史があります。
専門性の高い製品と市場構造
製造業の商材は技術的に高度かつ複雑で、ターゲット市場が限定されるため、広範囲にアプローチするマーケティング活動が効果的でないと考えられてきました。
人材やリソースの不足
マーケティングに関する専門知識を持つ人材が不足しており、特に中小規模の製造業では専任チームを設置する余裕がない場合が多い認識です。大企業においても、先進企業以外はこの状況は変わらないようにも思います。
デジタル化への遅れ
昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)という潮流が急激に加速し、マーケティングもデジタルやデータがキーとなることから、DX領域に含まれているケースがく、取り組みは加速しているもののデジタルツールの活用という点では遅れがあります。DXという広義な領域にマーケティングが含まれてしまうことにも懸念はあり、マーケティング領域だけでもデジタルツールは多くあり導入と活用には課題があります。
既存顧客への依存
長年築いてきた既存顧客との関係性に重点を置くあまり、新規顧客開拓や市場拡大への意欲が低下し、マーケティング活動への投資が後回しになっています。インバウンド型の営業スタイルが定着しすぎ、アウトバウンドの営業経験のある方が少ないという状況が見受けられます。
代理店販売の商習慣
- 多くのB2B製造業では、販売活動を代理店に依存する商習慣が根付いています。代理店が顧客との接点を持ち、営業活動を行うため、メーカー側で直接マーケティングを行う必要性が低くなっていました。
- 「代理店任せ」の構造により、自社で市場や顧客ニーズを深掘りする文化が育ちにくかったことも一因と思われます。
機密保持への強い意識
製造業では技術流出や競争優位性の喪失を恐れるあまり、自社のノウハウや製品情報を公開することに慎重でした。このため、Web上での情報発信やコンテンツマーケティングが進まなかったと言えるでしょう。
B2B製造業がデジタル中心のマーケティングに取り組む必要性
いま政府はデジタルトランスフォーメーション(DX)が製造業の競争力強化に不可欠であると指摘しています。
これは、経済産業省、厚生労働省、文部科学省連名でリリースされている「2024年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」の内容によります。
2024年版ものづくり白書によると、日本の製造業におけるデジタル化は着実に進展しているものの、多くの企業では個別工程のカイゼンにとどまっているのが現状のようです。2024年版では、デジタル化が企業の「稼ぐ力」の向上につながっていないことを主な課題として指摘しています。
具体的には、「コストの削減」が49.1%である一方で、「売上の向上」は21.3%、「新規事業への展開・新規顧客の開拓」は12.5%と低くなっています。

出典:2024年版ものづくり白書 DXの取組目的及び成果
主な課題
2024年版ものづくり白書によると、日本の製造業におけるデジタル化は進展しているものの、多くの企業では個別工程の改善にとどまっています。
政府の指摘
部分最適化に留まるデジタル化
多くの企業では個別工程のカイゼンにとどまっており、デジタル化が企業の「稼ぐ力」の向上につながっていないことが課題として指摘されています。
データの有効活用の不足
データの有効活用が不足していることが課題として挙げられています。
デジタル人材の不足
デジタル人材の不足が課題として指摘されており、DX推進において適切なデジタルスキルを持つ人材の存在が不可欠であると強調されています。
経営層のデジタルリテラシー不足
経営層のデジタルリテラシー不足が課題として挙げられています。
いかがでしょうか。上記内容をマーケティング領域でいえば、
部分最適に留まるデジタル化
マーケティングが販促/プロモーション活動にとどまっている為、個々の施策にフォーカスし近視眼となり売上と相関関係が見えない活動となっている
データの有効活用の不足
マーケティングフェーズで得られるデータと営業側のフィジカル側の活動とのデータが連携されていない。名刺情報が企業として一元管理できてない。顧客リストに対してアプローチするべき優先順位が決められてない。など
デジタル人材の不足
マーケティングを体系的に学んだ経営層、実務担当者が不在。こと、B2B領域においては、国内での歴史は2010年初頭から始まっており、そもそもの教育システムが確立されていない。
経営層のデジタルリテラシー不足
多くの経営層は、デジタル技術が普及する前の世代であり、新しい技術に対する理解や適応が遅れがちです。経営層向けのデジタルリテラシー教育プログラムが不足しており、学習の機会が限定的など。
B2B製造業のマーケティング戦略
B2B製造業がはじめるマーケティング。何から取り組むか。
よくあるケースとしては、
- Webサイトを強化する
- LPを作成してデジタル広告を打つ
- SNSを始める
といった、施策側から取り組むケースです。ただ、これら施策を実施していない企業は少ないと思います。ただ、施策側から取り組むケースがほとんどかと思います。

正しいアプローチ
- 現状の営業プロセスの可視化
- マーケティングと営業機能の全体像の設計
- 経営陣の理解と承認の獲得
- テクノロジーの活用(MAツールなど)
施策は見込み顧客とのコミュニケーションを作り出すものなのでもちろん重要ですが、その施策と売上を作り出すプロセスとしての相関を意識した活用が必要です。
まず製造業中心のB2B企業が取り組むにあたっては、現状の営業プロセスの可視化から始めると良いと思います。営業リソースが十分な企業以外は、限られた営業人員によって売上/利益の最大化を狙わなければなりません。
限られた営業人員を事務作業や社内ミーティングに投じる時間は最小限にしたいところです。ならばどこに営業リソースを投じるかといえば、ピュアセールス((顧客との対面活動、商談))、つまり顧客との対面行為、商談です。顧客を熟知している営業が商談に専念するためには、その商談を前フェーズで創出しておく必要があります。
「マーケティング」が指す内容ですが、公益社団法人 日本マーケティング協会が2024年に制定した内容によれば、”(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。”となっています。
これは広義の「マーケティング」であり、本記事で触れる「マーケティング」は組織上のマーケティングフェーズ、つまり商談を創出するプロセスを指しています。このマーケティングプロセスにおいて商談を創出するプロセスを構築するのが企業には必要です。
つまり、営業プロセスの可視化によってボトルネックを発見し、そのボトルネックを改善するために最適なリソースを配置していくことによってこれを解消します。
そのためにも、これから作り上げるマーケティング機能と営業機能の全体像を描き、貴社にとって最適な営業プロセスとはを作り上げることです。また、これらに取り組む際、若手営業チームや経営企画チームがこの構想を計画するケースがありますが、注意点としてはボトムアップではすぐに限界が来てしまう点です。
これらマーケティングオペレーションを構築する際、人・組織・ツールが絡み合い、単独の部門やチームで活動していくにあたっては組織連携が必須となり、やがて壁が立ちはだかります。プロジェクトスタート時に、経営陣にこの計画を理解し、承認を得てトップダウンの実行計画として落とし込むことが理想です。

そのためにも製造業中心のB2B企業は、貴社にとって施策ありきのマーケティングではなく、レベニューに貢献するためのマーケティング&セールスの全体最適化された正しいマーケティングを経営層および関係部署、関係スタッフが共通認識化しておきたいところです。
またB2B企業のマーケティングがレベニューに貢献する活動となるためには、前述の通り商談を創出していく必要があります。そのためにも、マーケティング分野のテクノロジーの活用が欠かせません。
このテクノロジーによって、商談化しやすい有望顧客を多くの保有顧客リストの中から発見していかねばなりません。つまりリアル/デジタルの施策によって、ターゲット顧客とのコミュニケーションを継続し、顧客が課題解決のために貴社プロダクトに興味を持ち、情報収集を始めたシグナルを検知し、その興味の度合いによってアプローチの優先順位をつけています。代表格のツールとしてはマーケティングオートメーションツール(MAツール)でしょう。
現在の先進企業は、MAツールを始め、様々なツールから得られるデータを複合的にAI分析を行い、有望顧客の見極め精度を高める取り組みが始まっています。
スモールスタートの重要性
製造業中心のB2B企業のマーケティングはできるところからスモールスタートする
とはいえ、最初から最適なマーケティングオペレーションの運用は難しいと思います。また従来の営業文化を変革していくことになるので、特定のプロダクトとその営業関係者の一部から、小さくスタートしこの活動から成功体験を作り出し、活動が有用であることの実績を作り、他のチーム、組織、そして最終的には全社活動へとつながれば良いと考えます。
ただ、Webサイトを強化する、デジタル広告を出稿するといった販促の域で活動していては、何らレベニューとの相関関係のない活動になってしまうので、施策自体がレベニューにどう相関関係があるのかを把握しながらの活動でなければなりません。
製造業中心のB2B企業が、営業の文化を自ら変革していくには多大な労力と時間を要してしまうことでしょう。もちろん自らの力だけで変革に挑んでいくことも可能ですが、マーケティング業界も大きな変革とスピードによって変化しています。製造業を理解しているマーケティングオペレーション構築を支援する企業の支援を仰ぐのも時代に追いつくには必要なのかもしれません。
まとめ
B2B製造業のマーケティング変革には時間と労力を要しますが、外部専門家の支援を受けることで、効果的に進めることができます。レベニューに貢献する真のマーケティング活動の構築が、今後のB2B製造業の成長には不可欠です。
