ナレッジセンター

コラム:デジタル時代を勝ち抜く製造業のデジタル人材育成戦略

デジタル時代を勝ち抜く 製造業のデジタル人材育成戦略
目次

はじめに:製造業のデジタル化を加速させる人材こそが最大の経営資源

製造業界は今、歴史的な転換点に立っています。デジタル技術の急速な発展、少子高齢化による労働人口の減少、グローバル競争の激化—これらの課題に直面しながら、日本の製造業が競争力を維持し、成長していくためには、デジタル変革(DX)が不可欠です。

しかし、最先端の機器やシステムを導入するだけでは、真のデジタル変革は実現しません。デジタル技術を理解し、活用できる「デジタル人材」の存在こそが、製造業のデジタル変革を成功に導く鍵となります。

当社ベネクロは「製造業の未来を創る」というミッションのもと、データ駆動型マーケティングを通じて顧客理解から売上貢献までのプロセスをデジタルで最適化する支援を行ってきました。その経験から、デジタル人材の育成が製造業のDX推進における最重要課題であると確信しています。

製造業のデジタル人材不足がもたらす危機

日本の製造業におけるデジタル化の遅れ

経済産業省の「2020年版ものづくり白書」によれば、製造業においてデジタル技術を活用することで工程設計力が向上したと回答した企業の22.5%が「デジタル人材の育成・確保」を理由として挙げています(経済産業省, 2020)。これは、デジタル人材が製造業の競争力強化に直結することを示しています。

しかし現実には、日本の製造業のデジタル化は諸外国と比較して後れを取っている状況です。総務省の「令和3年版情報通信白書」によれば、情報通信業では約45%の企業がデジタル・トランスフォーメーションに取り組んでいるのに対し、製造業ではわずか25%程度にとどまっています(総務省, 2021)。

業種別DX取り組み状況の図

矢野経済研究所が2025年に向けて実施した「工場デジタル化市場に関する調査」では、製造現場全般でのデジタル活用が進展しつつも、一部業種では「トランプリスク」などの影響で投資計画を見直す企業も出ていることが指摘されています(矢野経済研究所, 2025)。このような外部環境の変化にも柔軟に対応できる人材育成が求められています。

デジタル人材不足の実態

デジタル人材が不足している理由として、総務省の調査では4割以上の企業が「採用および育成の体制が整っていないこと」を挙げています(総務省, 2021)。さらに、日本企業のデジタル人材確保・育成の取り組みについて「社内・社外研修の充実」を重視する一方で、「特に何も行っていない」との回答も多く、社内の現有戦力で乗り切ろうとする傾向が見られます。

「2024年版ものづくり白書」では、製造業のデジタル化が企業の「稼ぐ力」の向上につながっていないという課題が指摘されており(三菱電機デジタルイノベーション, 2024)、単なるデジタル技術の導入だけでなく、それを活用して実際に価値創出できる人材の育成が急務となっています。

こうした状況は、製造業における深刻なデジタル人材不足を引き起こし、結果としてイノベーションの停滞や競争力の低下につながっています。

デジタル人材に求められる資質と能力

デジタル人材育成を効果的に進めるためには、まず「どのような人材を育てるのか」という目標を明確にする必要があります。製造業において求められるデジタル人材の資質・能力には、以下のような要素があります:

1. テクノロジーへの理解と応用力

最新のデジタル技術(AI、IoT、クラウドなど)の基本的な仕組みを理解し、それらを自社の課題解決にどう活用できるかを考える応用力が求められます。必ずしも深いプログラミング知識は必要ありませんが、技術トレンドへの関心と学び続ける姿勢が重要です。

2. データ分析・活用能力

製造現場や顧客接点から得られるデータを分析し、意思決定に活かせる能力が必須です。統計の基礎知識やデータ可視化のスキル、データに基づいて仮説を立て検証するプロセスを理解していることが重要になります。

3. システム思考とプロセス設計力

製造業の複雑なプロセスを俯瞰的に捉え、問題点を発見し、デジタル技術を活用した最適化を設計できる能力が求められます。部分最適ではなく全体最適の視点を持ち、業務プロセス全体をデザインする力が重要です。

4. ビジネス感覚とコミュニケーション能力

技術的な知識だけでなく、ビジネスの文脈での価値創出を理解し、経営層や現場スタッフとのコミュニケーションを通じてDXの必要性や方向性を共有できる能力も欠かせません。

製造業におけるデジタル人材育成の実践戦略

製造業でデジタル人材を効果的に育成するための具体的な戦略をご紹介します。成功事例から学んだベストプラクティスをもとに、段階的なアプローチを解説します。

製造業におけるデジタル人材育成の5ステップ

1. 育成計画の策定と推進体制の整備

デジタル人材育成を組織的に進めるには、経営層のコミットメントと明確なビジョンが不可欠です。DXに関する最新調査によれば、DXの取り組みが進んでいない企業のうち、約7割が「DXの戦略立案や統括を行う人材が不足している」「DXを現場で推進、実行する人材が不足している」と回答しています(リンプレス, 2024)。このような状況を打開するためには、まず以下のステップで育成計画を策定しましょう:

  • デジタル化によって解決したい自社の課題を明確にする
  • 必要なデジタル人材の種類とスキルレベルを定義する
  • 短期・中期・長期の育成目標を設定する
  • 育成に必要なリソース(予算・時間・体制)を確保する

京セラドキュメントソリューションズの調査によれば、製造業のデジタル化を成功させるには「スモールステップで小規模な取り組みから始めること」が重要だとされています(京セラドキュメントソリューションズ, 2024)。大規模な施策よりも、具体的な課題に焦点を当てた取り組みから始めることで、成功体験を積み重ねられます。

経営層がリーダーシップを発揮し、人材育成の目的・ビジョンを全社に伝えることで、組織全体の理解と協力を得ることが重要です。

2. 適性のある人材の選定

デジタル人材育成の対象者を選定する際は、以下の点に注目しましょう:

  • デジタル技術への関心や学習意欲が高い人材
  • 論理的思考力やデータ分析の基礎的な素養を持つ人材
  • 変化に柔軟に対応できる適応力がある人材
  • 現場の課題を深く理解している人材

若手だけでなく、現場経験が豊富なベテラン社員も、デジタル技術と製造現場の知識を橋渡しする重要な役割を担えます。多様な年齢層・バックグラウンドの人材を育成対象とすることで、組織全体のデジタル変革を促進できます。

3. 段階的な育成プログラムの実施

デジタル人材育成は一朝一夕に成し遂げられるものではありません。以下のような段階的なアプローチが効果的です:

第1段階:基礎的なデジタルリテラシーの習得

  • デジタル技術の基礎知識(AI、IoT、ビッグデータなど)
  • データ分析の基礎(統計、データ可視化など)
  • デジタルツールの活用方法

第2段階:課題解決型の実践学習

  • 小規模なデジタル化プロジェクトへの参加
  • 実際の業務課題に対するデジタルソリューションの検討
  • アジャイル開発の手法を用いた短期プロジェクト

第3段階:スペシャリスト育成とリーダーシップ開発

  • 特定分野(データサイエンス、IoTなど)の専門知識の深化
  • 部門横断プロジェクトのリーダーシップ経験
  • 外部ネットワークとの連携による知見の拡大

4. 多様な学習機会の提供

効果的なデジタル人材育成には、様々な学習機会を組み合わせることが重要です:

社内研修

  • eラーニングによる基礎知識の習得
  • ワークショップ形式の実践的トレーニング
  • 社内勉強会やナレッジシェアの場の創出

実践的OJT

  • デジタル化プロジェクトへのアサインメント
  • メンターによる指導
  • 成功体験の積み重ねによる自信の醸成

外部リソースの活用

  • 専門研修機関の活用
  • デジタル技術企業との連携
  • 外部コミュニティへの参加

5. 評価と継続的改善

デジタル人材育成の効果を測定し、継続的に改善することも重要です:

  • スキル習得度の定期的な評価
  • 実務での成果測定
  • 育成プログラムの見直しと改善

成功事例から学ぶデジタル人材育成のポイント

製造業においてデジタル人材育成に成功している企業の事例から、重要なポイントを抽出しました。

成功のポイント1:リーダーシップ開発と現場主導の両輪

製造現場のリーダーを担う中堅層に、部下の指導・育成スキルを身に付けさせることが重要です。LDcubeの調査によれば、管理職やリーダー(特に技術者)に若手の指導・育成スキルが十分に備わっていないことがデジタル人材育成の大きな障壁となっています(LDcube, 2024)。従来の「見て覚えろ」式の指導から脱却し、若手の主体性を引き出すコーチング型のマネジメントを浸透させることで、組織全体のデジタル対応力が向上します。

成功のポイント2:小さな成功体験の積み重ね

DX人材を育成しスキルを高めるためには、最初から大規模なプロジェクトに携わるのではなく、アジャイル開発の手法を用いた小規模なプロジェクトから始めることが効果的です。パーソルグループによれば、「スモールステップで小さなプロジェクトへの取り組みから始めることが重要」とされており、例としてExcelのチェック作業へのRPA導入など小さなDXプロジェクトからスタートすることが推奨されています(パーソルグループ, 2024)。小規模プロジェクトは完了までの期間が短く難易度も低いため、育成段階にある人材でも成功体験を積み重ねやすいメリットがあります。

成功のポイント3:組織全体での学習文化の醸成

デジタル人材の育成の目的やビジョンを全社へ伝え、育成過程を共有・可視化することで、他部署からのサポートを得やすい環境、失敗にも寛容な環境を作ることができます。JMAMの調査によれば、「育成部門内だけの閉じられた環境で行わないように注意し、全社的に共有されることで、他部署からもサポートを得やすい環境、失敗にも寛容な環境ができあがる」とされています(JMAM, 2024)。成功体験を共有することで、全社的なモチベーション向上や新たなイノベーションにつながります。

成功のポイント4:継続的な学習環境の構築

製造業で必要とされる知識やスキルを、従業員が場所や時間を選ばずに学べる環境を提供するLMS(学習管理システム)の導入が効果的です。LDcubeによれば、「教材の配信から、受講状況の管理、学習成果の評価まで、人材育成に必要な一連の機能を1つのシステムで管理できる点が強み」とされています(LDcube, 2024)。特に製造業では、現場での実務と学習を両立させる必要があるため、時間や場所に縛られない学習環境が重要です。

製造業におけるデジタル技術トレンドと人材育成の接点

製造業のデジタル人材育成を考える上で、最新のテクノロジートレンドを理解し、それに対応できる人材を育てることが重要です。2025年に向けて注目すべき製造業のデジタル技術トレンドには以下のようなものがあります。

製造業における最新技術トレンド

  1. IoTとAIの融合によるスマートファクトリー化: 矢野経済研究所の調査によると、2024年度の工場デジタル化国内市場規模は前年度比104.2%の1兆8,420億円と予測されています(矢野経済研究所, 2025)。IoTセンサーを活用した予知保全システムの導入により、機器の故障を事前に予測し、ダウンタイムを最小限に抑える取り組みが進んでいます(NexTech Journal, 2025)。
  2. デジタルツインと生産シミュレーション: 製造プロセスのデジタルコピーを作成し、仮想環境でシミュレーションを行うことで、実際の生産ラインの最適化に活かす技術が普及しています。生産計画の精度向上や問題の早期発見に貢献しています。
  3. サービス化(Servitization)の加速: 製造業では従来の製品単品での売切りモデルから、製品の購入後のサポートやメンテナンス支援、消耗品提供などを含めたサービス販売モデル(従量課金モデルや定額/サブスクリプションモデル)へのシフトが進んでいます(矢野経済研究所, 2025)。これに伴い、製品だけでなくサービス設計や顧客体験デザインのスキルも求められるようになっています。
  4. レガシーシステムからの脱却: 日本国内の製造業では、20年以上稼働するレガシーシステムが全体の6割に達する「2025年の崖」が迫っています(三菱電機デジタルイノベーション, 2024)。これらのシステム刷新に関わるデジタル人材のニーズが高まっています。

デジタル技術トレンドを見据えた人材育成のポイント

これらの技術トレンドに対応するためには、単なる技術知識だけではなく、ビジネスとテクノロジーの両面を理解し、全体最適の視点で変革を推進できる人材の育成が重要です。特に以下の点に注力することが求められます:

  1. データリテラシーの向上: 製造現場から得られるデータを分析し、意思決定に活かせるデータリテラシーの習得が必須となっています。基本的な統計知識からデータ可視化、AIモデルの活用まで、段階的な教育プログラムが効果的です。
  2. 分野横断型のスキル開発: 製造技術だけでなく、ITやデジタルマーケティング、サービスデザインなど複数の分野にまたがるスキルを持つT型・π型人材の育成が求められています。

まとめ:デジタル人材育成こそが競争力の源泉

製造業におけるデジタル変革の成否は、最終的には「人」にかかっています。最新のデジタル技術を理解し活用できる人材を育成することは、単なるスキルアップの問題ではなく、企業の持続的な競争力を左右する経営課題です。

「2024年版ものづくり白書」が指摘するように、デジタル化が企業の「稼ぐ力」の向上につながっていないという課題を解決するためには、技術導入だけでなく、それを活用して新たな価値を創出できる人材の育成が不可欠です(三菱電機デジタルイノベーション, 2024)。

ベネクロでは、製造業のお客様のデジタル人材育成、特にBtoB領域におけるレベニューに貢献するマーケティングディレクターの育成を、戦略策定から実行支援まで一貫してサポートしています。伴走型コンサルティングと研修プログラムを通じて、お客様企業が自走できる状態を作り出すことを目指しています。デジタル変革の時代に、貴社の競争力強化と持続的成長を実現するパートナーとして、ぜひご相談ください。

ベネクロの伴走支援プログラム

【参考文献・出典】

  1. 経済産業省 (2020) 「2020年版ものづくり白書」 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2020/
  2. 総務省 (2021) 「令和3年版情報通信白書」 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112420.html
  3. 三菱電機デジタルイノベーション (2024) 「2024年版ものづくり白書から読み解くデジタル化の必要性」 https://www.mdsol.co.jp/column/column_120_2686.html
  4. 矢野経済研究所 (2025) 「工場デジタル化市場に関する調査」 https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3794
  5. 京セラドキュメントソリューションズ (2024) 「製造業のデジタル化が進まない理由は?課題や事例、推進のポイント」 https://www.kyoceradocumentsolutions.co.jp/column/industry/manufacturing/article4.html
  6. LDcube (2024) 「製造業の人材育成の方法とは?直面しやすい課題と成功への7つの方法」 https://ldcube.jp/blog/manufacturing_industry231
  7. パーソルグループ (2024) 「DX人材育成の6ステップ|ポイントやよくある課題、事例も解説」 https://www.persol-group.co.jp/service/business/article/9202/
  8. JMAM (2024) 「DX人材の育成事例5選|育成を成功させるステップから注意点まで解説」 https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0069-dx_humanresources_case.html
  9. NexTech Journal (2025) 「DXに不可欠なデジタル人材とは?育成方法や企業事例を紹介」 https://www.nextech-week.jp/hub/ja-jp/blog/article_06.html
  10. リンプレス (2024) 「DX人材を育成した事例8選を紹介|大手企業から学ぶ成功のポイント」 https://www.linpress.co.jp/blog/c102

【株式会社ベネクロについて】

ベネクロは、「〜製造業の未来を創る〜」をミッションに掲げ、データ駆動型マーケティングを通じて、顧客理解から売上貢献までのプロセスをデジタルで最適化する支援を行うコンサルティング会社です。デジタル推進に関するコンサルティングサービスの提供、デジタル推進人材育成および組織デザイン、各種ウェブアプリケーション構築、SaaSシステムの導入および運用、デジタルコンテンツの開発・制作などを行っています。

内村裕香

コンサルタント
内村裕香 プロフィール

2015年から大手総合電機メーカーでマーケティング組織の立ち上げと社内定着化を実現。現在は株式会社ベネクロ代表取締役として、「製造業の未来を創る」をテーマにBtoB企業の営業変革に取り組んでいます。製造業30年の経験と最新マーケティング知見を融合させ、マーケティング基盤構築から施策実行までを包括的に支援。データ駆動型アプローチで顧客企業の課題解決と営業生産性向上を実現し、日本の製造業の競争力強化に貢献しています。

LinkedIn

https://www.linkedin.com/in/yuukauchimura/

目次